葬儀の祭壇とは何か?祭壇の歴史と今について解説します。

時代とともに変わっていく冠婚葬祭の文化。葬儀自体はおそらく何千年も前から行われてきた人類にとって欠かせない行事ですが、そのスタイルは様々な形で広がっていきました。
しかし、その中で死者あるいは神様に祈りや供物をささげる「祭壇」というものは、どの時代、国、宗教に関わらず、葬儀に欠かせないものとして存在してきました。

近年の日本でも葬儀のスタイルは日々変化していくのを感じますが、祭壇は、常に葬儀の変化とともに形を変えながらも、今なお必須のものとして葬儀の中心的存在として役割を果たしています。

今回は、この祭壇が、日本においてどのように変化してきたのかを解説していきたいと思います。

祭壇の意義は何?なくてはならないものなのか?

日本の祭壇の変遷を説明する前に、葬儀において、祭壇は何のためにあるのかを簡単に説明します。
まず、挙げられるのは、宗教儀式の祭具としての役割。仏教、神道、キリスト教どの宗教においても、祭壇には必ずその宗教の「シンボル」を設置します。仏教であれば本尊を、神道であれば鏡をはじめとした神具、キリスト教であれば十字架といった具合です。それらを飾る台が祭壇になりますが、多くの人々が訪れる葬儀なので、視覚的にわかりやすくするために、大きさや形など工夫され、種類が広がっていきました。

日本では、無宗教の葬儀や後日行うお別れの会においても、祭壇を用意しなければならない、という決まりはないにも関わらず、参列者が来る葬儀のほとんどは祭壇を用意します。
故人に対して祈りやお花を捧げる場として、皆が集まる中心点が葬儀においてはやはり必須ということなのかと思います。

また、葬儀を執り行う遺族や参列者の故人への悲しみや愛情、敬意といった様々な感情を昇華させるという意味もあります。例えば故人を好きだったお花を使った花祭壇を用意するなど、感謝の気持ちを内面だけでなく、形として表現する方も多くおられます。

一方で、葬儀式のない直葬(火葬式)の場合は、祭壇は用意されません。故人の棺を囲んでお別れをする場合は、棺の中に花を入れる「花入れ」の儀式を行ったりしますので、祭壇ではなく故人自体がその場の中心になります。人数が限られている場合は、そのような葬送スタイルを選択されることもありますが、多くの方が参列する場合だと、やはり祭壇は必要ということになってきます。

日本の葬儀の祭壇はいつから始まったか

葬儀会場に飾られる白木祭壇。この様式が生まれたのは戦後に入ってからと言われています。

先ほどの説明のように、祭壇は、お花や遺影写真や宗教用具が飾られた大きいサイズのものをイメージする方が多いと思いますが、これが一般的に浸透したのは、第二次世界大戦後であり、歴史はそこまで古いわけではありません。
それまでは、今でいう枕飾りのような小さな祭壇が枕元に置かれるくらいであったようです。

日本は現在ではほぼ100%が火葬ですが、戦前の日本は火葬が普及し始めた頃であり、土葬が中心であった地域も多かったようです。しかし、戦後になって急速に火葬の比率が高まり、それに伴い、葬儀の様式も統一化されるように来たようです。
高度経済成長期になると、自宅での葬儀が中心だった時代から、葬儀社が建設した会館で葬儀を行うことが主流になり、その中で大きな会館に飾られるようになったのが、「白木祭壇」です。


初期の白木祭壇は、本尊や遺影写真、お供え物を飾ることが中心であり、花は脇に少し飾られる程度でしたが、消費者のニーズの変化によって、徐々に花が飾られるようになり、白菊を白木祭壇メインを占めることとなっていきます。

白い菊をドット絵のように並べ、造形をする技術「ライン祭壇」

また、白菊の技術力を競うように、グラデーションを持たせた祭壇や、菊の花で線を描くライン祭壇など、新しいデザインが生まれてきました。
高度経済成長からバブルにかけて、葬儀も他の分野と同じく、より大きく、華やかにという方向になっていきました。

花祭壇の登場

その後、これまで白木祭壇と和菊でデザインされた祭壇がほとんどでしたが、白木祭壇を無くし、菊以外の様々な花を使う祭壇、今の「花祭壇」が増えてきます。
時代が進むにつれ、「多様化」がキーワードとなり、花の種類や形も増えてきて、故人が好きな花やライフワークなどを表現したオリジナルの花祭壇など、自分らしさ故人らしさがテーマのデザインが増え始めました。
また、このころから一般の参列者を呼ばない、「家族葬」が中心となり、重厚・華美なものより、温かみのあるもの、シンプルなものが好まれるようになってきました。

葬儀の縮小化とこれからの葬儀について

2022年の現代は、葬儀はコロナ禍の影響によって、それまでにも進んでいた葬儀の縮小化、簡素化がさらに加速して、家族葬向けのシンプルな祭壇での葬儀、もしくは葬儀を行わない直葬・火葬式のスタイルが大半を占める時代になったという感はあります。
その一方で、大勢の会葬者をお呼びする葬儀、オリジナルの花祭壇で故人らしさを表現する葬儀などを選ばれる人もまだ多くいます。
一時期のように時代の流れとして葬儀をお金をかけて行う、という人は少ないのかもしれませんが、自らが取捨選択をし、必要と思う人が主体的に葬儀を選択する時代であるのかもしれません。

やがてまた、会葬や会食の制限もなくなり、人々の交流も戻ってくるのかもしれませんが、その時に、葬儀がどのようになっていくのかはわかりませんが、いつの時代でも人の死を悼む気持ちがある以上、人々の祈りの場所である祭壇は形を変えて存在するものと思います。

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