大いなる海へ見送る、海洋散骨という葬法

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お墓に入らないという選択――。ひと昔前とは違い、家族のあり方、人の生き方の多様化に伴い、葬送の選択肢も増え、より故人の想いを尊重できるようになってきた。その中で、今ひそかに話題を集めているのが「海に散骨する」という葬送方法である。
これまでのお墓に入るのが当たり前という認識を覆し、大いなる海へ還る、その葬送方法には、どこか美しく自由な死生観すら感じさせる。

今回、海洋散骨のブルーオーシャンセレモニーを運営する株式会社ハウスボートクラブの代表取締役であり、全国の散骨業者で組織する一般社団法人日本海洋散骨協会の代表理事を務められる、村田ますみさんに海洋散骨について詳しくお話しをうかがった。

プロセスを大事にする
散骨までの流れとプラン

―― ブルーオーシャンセレモニーを始められた経緯をお聞かせいただけますか?

村田 今年で丸12年になります。母から「沖縄の海に散骨してほしい」と言われたことがきっかけで、母を散骨したことが、人生の大きな転機になりました。

―― 海洋散骨に対して、海へ遺灰を撒くといった漠然としたイメージしか持ち合わせていない方も多いと思うのですが、具体的にどのようなことを行うのか、海洋散骨の流れやプランなどを教えていただけますか?

村田 一言で海洋散骨といっても、さまざまなスタイルがありますので、最適な方法を検討するための参考として、代表的なプランを紹介させていただきますと、まず、もっともポピュラーなスタイルとして、船を一隻貸し切る「チャーター散骨」があります。それから、一度に数組の遺族が乗船し、乗り合いで行う「合同散骨」。依頼者が散骨に立ち会わず、遺骨を預けて散骨を依頼する「代行(委託)散骨」などもあります。
手順や流れとしましては、まずは日程を決める。それは、散骨の日程と粉骨の日程と、両方です。散骨する為には、お骨を細かくパウダー状にする必要がありますので、事前にそれはしておかなければなりません。粉骨する際には、可能であればご遺族にはこちらに来ていただいて、立ち会うことをお勧めしています。今いろいろな事業者さんがあり、遺骨をゆうパックで送ってくださいというところもありますが、やはり顔と顔を合わせてお預かりして、そこでお話しするというのが大事なプロセスだと私たちは思っています。
できるだけ船で、「はじめまして」にならないように。ただ行って撒く、だけではなくて。

自由だからこそ実現できる
遺族の方の「こうしたい」という想い

―― 船では、皆様どのようなセレモニーをされていますか?

村田 ご家族だけでこじんまりという方が多いので、散骨ポイントに行くまでの間は自由に歓談されている方々もいらっしゃいますが、お孫さんが故人のためにバイオリンを演奏されたり、故人のお写真で編集した動画を船内のモニターで上映することもありました。
あと、祭壇を置いて船の中でお別れ会を行う場合もあります。宗教儀礼を取り入れることもできますので、仏式でご葬儀された方は僧侶の方に来ていただいて船上で四十九日の法要をして、そのまま散骨するという方もいらっしゃいました。
散骨する際は、水に溶ける袋に入った粉骨した遺骨をお花と一緒に、ご遺族の手で海に入れていただきます。お花はこちらでご用意しますが、勿論お持ち込みいただいても構いません。ただ、海に撒くので、やはり環境に配慮しなければならないので、花束やアレンジメントを持って来られる方もいらっしゃいますが、花束も花束そのままですと環境に負荷を与えてしまい、分解されるのに時間がかかりますので、花びらにさせていただいています。
海に撒くと、遺骨はすぐ沈んでいきますが、花びらは海の上に広がって、しばらくそこに浮かんでいるので、とても綺麗です。そこを見ながら黙祷をして、そこを中心に船がゆっくりまわって、汽笛を鳴らして出航します。
港まで戻ってきたら、そのまま下船されるでもいいですし、船の上でお食事をすることもできます。こうしなければならないといった仕切りがありませんので、遺族の方が「こうしたい」というその想いを実現するためのお手伝いをしています。
私たちが考えて提案するよりも、ご遺族の方のほうが発想も豊かですし、故人のことを一番よく知っていらっしゃいます。良いお見送りというのは、遺族の方が主体的に送っていただくのが一番ベストではないかと考えています。

ペットも家族の一員
ご遺族からのご要望でペットも一緒に散骨

―― ブルーオーシャンセレモニーでは、ペットも一緒に散骨することが可能ですが、ペットも一緒に散骨できるようにしようと決めたきっかけを教えていただけますか?

村田 やはりご遺族からのご要望です。うちのサービスは、ほぼご遺族からのご要望で出来ていますので(笑)
ご遺骨を引き取りに伺いますと、お家にペットの遺骨を置いている方も多く、そこで「わんちゃんも一緒にいいかしら」と言われたことがきっかけとなります。
ご遺族からそういうご相談があったときは、私としては特に違和感はありませんでした。ペットも家族の一員ですから。三途の河を一緒にわんちゃんが先導して連れて行ってくれたら素敵なことです。ただ、確かにいろんな考えの方がいらっしゃいます。うちのプランでいうと、チャーターと合同というのがありますが、合同のときは、基本的には宗教者が乗ったり、ペットを連れて、というのはご遠慮いただいていました。
ただ、「ペットも一緒に散骨したいけれど、乗船する人数も多くはないし、船をチャーターするほどでもない」と。そういうご要望が増えたので、「じゃあペットもOKの合同散骨というのをつくろう」と思い立ちました。この日はペットも乗りますよ、という前提の日を設けることにしたのです。

―― ご要望が増えたというのは、ペットに対しても“家族の一員として一緒に”と思われる方が増えてきたということでしょうか。

村田 時代的なものもあるのかもしれません。
でも、まだ従来のお墓の方ですと、なかなか難しい。仏教でも宗派によっては人間と動物は住む世界が違うと言われていますし、法的にはペットの遺骨は廃棄物という扱いになります。人間の遺骨とは扱いが違います。そこはペットを飼われている皆さんの気持ちとは相反するところになるかと思います。でも、だからこそ海洋散骨はある意味自由というか、受け入れられるところでもあります。以前も、おばあちゃん一人と、先祖代々のわんちゃん8匹、一緒に撒いたこともありました。つい先日も、猫ちゃん5匹お預かりしました(笑)
最終的にやっと託せる場所ができたと思っていただけたらのなら、嬉しく思います。

―― ペット散骨の流れや料金で、人の場合と異なるところがあれば教えていただけますか?

人でもペットでも手順や流れは同じになりますので、料金も同じになります。ただ、先ほども申し上げたように、いろんな考えの方がいらっしゃいますので、粉骨する機械はペットはペット専用の機械という風に分けています。

死に方を考えるのは
生き方を考えるということ

―― これまでブルーオーシャンセレモニーを通じていろんな人たちと接してこられて、その関わりの中で改めて感じたことなどあれば教えていただけますか?

村田 いろんな方々の生き方を学ばせていただいていると感じます。本当に一人一人の中にストーリーがありますので。誰でも最後は亡くなって遺骨になって、その遺骨をどうにか、どこかにしなければいけない。それは人生の流れの一番最後の部分になります。そこのお世話をすることによって、その遺骨になった方の人と成りや人生、ご家族のこと、そういうお話しをうかがい、いろんな生き様を見させていただいた。

―― また特別な想いを持ってる方が多いような気がしますよね、海洋散骨を選ばれる方は。

村田 そうですね。まだまだ一般的な方法ではありませんので。一般的は方法ではないからこそ、というのでしょうか。必ず聞く質問があって、「なぜ海洋散骨をしようと思ったんですか?」と。そうすると、その人の背景にあるお考えとか死生観が伺えますし、おうちの事情とか、お墓の事情とかもきけます。それが本当に一つではないんですよね。いろんな方がいらっしゃって。こういう方は散骨です、とも言えない。
そして、私が感じるのは、今は個の時代だなと。同じ屋根の下で暮らしている家族でも、一人一人価値観が違う。「お父さんは散骨して欲しいと言っているけれど、私は泳げないから山がいい」とか(笑)多様化した考えを解決できる選択肢は用意されています。ただ、まず遺族が知らないといけないですよね。どういう風に送り出すか、圧倒的に知識量が足りないように感じます。こういうことは学校では教えてくれないですから(笑)自分で知ろうとしないといけないですよね。
さっきも申しましたように、多様化していて、とても自由ではあるのだけれど。自由ということは自分で選択をしなければいけない、ということでもある。それを自分で主体的にやることで、いろいろと考える。それが生き方に繋がる。自分がどういう風に死にたいかと考えるということは、自分がどういう風に生きたいかと考えることですし、人の死から学べることはすごくあります。

終活 “ コミュニティ ” カフェ
気軽に明るく死ぬ話もできたら

―― 村田さんがご遺族なり、これから死ぬかもしないと不安を抱えている人たちに対して、自分が何を提案できるのかと考えて、その人たちの受け皿になられているのだとお話を聞いていて感じました。

村田 私は全員が散骨すればいいと思っているわけではなくて。だから、人によってはお墓も紹介します。0か1かではなくて、いろんな選択肢がありますので。
やはり大事になってくるのは、こういう顔を合わせたコミュニケーションだと思っています。今ネットで何でも調べられますので、情報に溢れていて溺れてしまって、散骨と調べてもバッと出てきて。どれが良い情報か見るだけではわからない。一見綺麗につくっているウェブサイトでも、ではそこが信頼できるかと言うとそうとも限らない。検索結果の一番上位に出てくるところが一番なのかというと、そうでもないですし。
最終的には人なんですよね。この人だったら大丈夫っていう。

―― そういう意味でいうと、いろんな方たちと直接会ってお話しする機会を本当に大切にされているんですね。

村田 「顔と顔から心と心へ」というのが、いちおうちの企業理念でもありますので。AIなどが発展すればするほど、こういった顔をあわせるコミュニケーションの価値が上がると思っています。それから、これから散骨を考えている人にお伝えしたいのは、自分の散骨は自分ではできませんので、誰かにお願いしなければならないですよね。そのお願いする誰かに、なぜそう思うのかをきちんと伝えておいてほしい、ということです。こういう死に方をしたい、こういう生き方をしたい、と普段から伝えておいておくことが一番大事だと考えています。
そういう想いで、4年前にこのカフェ「BULE OCEAN CAFF(ブルーオーシャンカフェ)」 をつくりました。気軽に明るい雰囲気の中で、食卓で普通に死ぬ話ができるっていう(笑)そういう社会をつくりたいと。
散骨をやっているなかで、様々なよろず相談を受けるようになりました。「私は最後散骨って決めているけど、その前のお葬式はどうしたらいいでしょう?」「ちょっと今相続でもめているんですが」「この辺に良い老人ホームないでしょうか?」と(笑)
そういう相談って、皆さんどこに相談しに行ったらいいのかわからないようでした。相続や法律事務所は、少しハードルが高い。ちょっとしたことが訊きたいだけなのに。

―― 皆さんとコミュニケーションをとっていきたいという想いから、このカフェをつくられたのですね。

村田 はい。そういった理由から、ただの終活カフェではなく、終活“コミュニティ”カフェという風にしました。コミュニティにこだわりがあります。人と話すことで、自分で考えて、答えを出す。

―― 散骨された遺族の方とも、その後も会われたりされていますか?

村田 そうそう。それが結構、楽しいですね。
遺族の方が顔を見に、このカフェに来てくださいます。

―― ひとつのセレモニーを通じて、人との繋がりができるというのも素敵なことですね。

村田 船でもメモリアルクルーズというのを毎月出していますが、そこで遺族同士が繋がって仲良くなることもあります。なかなか、お墓詣りに行って隣の墓の人と仲良しになったという話は聞きませんが(笑)
とても嬉しいですね。

 実生活において他人との関わりが気薄になりがちな現代社会で、地域や人との繋がりを何よりも大切にしているBULE OCEAN CAFF(ブルーオーシャンカフェ)は、東京湾からほど近い、車で15分ほどの距離にある。カフェでは飲食を行うだけでなく、毎月様々なイベントも開催されている。
2月20日(水)には、グリーフワーク(大切な方を亡くした悲しみに向き合い、折り合いをつけていく作業)を支援するための、グリーフわかちあいの会も開催される予定だ。こちらのイベントは、人だけでなく、ペットを亡くされた方も参加することができるという。
人もペットも、大切な存在を失ったという意味では等しい。その悲しみと、どう向き合うかは、残された者にかかっている。
傷付いた人たちにそっと寄り添う村田さんの姿は、人とのコミュニケーションの中で自分の生きる姿勢を見いだし、より前向きに生きて欲しい。そんな真摯な想いを感じさせられた。

村田 ますみ(むらた ますみ)

1973年 東京都生まれ
同志社大学卒業後、IT業界、生花流通業を経て2007年に株式会社ハウスボートクラブを設立。東京を中心にパーティークルーズと海洋散骨事業を展開。2014年全国の散骨業者で組織する一般社団法人日本海洋散骨協会代表理事に就任、2015年には日本初の終活コニュニティカフェ「BLUE OCEAN CAFE」をオープンし、終活のトータルサポートを本格的に開始した。
著書「お墓に入りたくない!という選択」(2013年 朝日新聞出版)「海へ還る 海洋散骨の手引き」(2018年 啓文社出版)

BLUE OCEAN CEREMONY(ブルーオーシャンセレモニー)の公式ページ
BLUE OCEAN CAFE(ブルーオーシャンカフェ)の公式ページ
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この記事を書いた人

ライター / プランナー 
野村みどり(ノムラ ミドリ)
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